ZARDの新曲「もっと近くで君の横顔見ていたい」は、いよいよ明後日が発売日、明日がフラゲ日だ。
既に月桂冠のCMで流れているが、ちょっとレトロでミステリアスな曲調がかえって新しさを感じさせる良い曲だと思う。しかし、曲もさることながら、坂井泉水さんの歌詞の不思議さには驚嘆させられる。1曲で全く異なるふたつの愛の形が語られているのだから!

かつて熱い恋愛関係にあったが、今では距離ができてしまった二人。希望となって私を照らしてくれる君との想い出。「もっと近くで君の横顔見ていたい」は主人公の切ない呼びかけである。これが「表」のストーリーである。

それに対して「裏」のストーリーは、恋人同士が遠くに居るという「遠距離恋愛」だ。かつて、主人公は「夢を追っていた」が、夢は「色を失ってしまった」。そんな傷心の日々、君はいつもさりげなく「傍(となり)で笑ってくれ」、「希望と安らぎをくれた」。そんな二人の関係が恋に変わる瞬間、「たった一言で世界は謎めく」。
将来の「二人の行く先」には「淋しさ」が待っているのかも知れない。「愛に苛立ちをおぼえ」るときもあるかも知れない。けれども、「人は淋しさで強くなってゆく」。私はきっと耐えていける。このように「裏」のストーリーでは、「もっと近くで君の横顔見ていたい」というのは、今遠くに居る恋人を思う気持ちを表現したものになっている。

曖昧な表現でどちらとも取れるなんていうよくある話じゃない。表現に曖昧さはない。この曲では、どちらの解釈も完璧に対等に成り立つのである。ひとつの歌詞で二つのストーリーを表現するという離れ技をやってのけたわけだが、これは偶然ではなく、坂井さんが意図したものだという点が実にすごいところだ。

坂井さんはMusic Freak Magazine のインタビューで「タイトルとなっている言葉(もっと近くで君の横顔見ていたい)は、(中略)関係が現在進行形なのか過去の出来事なのか二極化の意味を想定させ」るものだと言っている。「表」のストーリーでは恋愛は過去の出来事であったが、「裏」では現在進行形である。つまり、坂井さんは意図的にこの詩にふたつの意味を持たせているのだ!気付いたときは本当に驚いた。この人、天才じゃないの?