言葉のちから

「言葉で何か変わると信じています」
坂井泉水さんが神戸ライブのMCでこんな意味のことを言った。ちょっと驚いたが、私にはこの一言がとても嬉しかった。

坂井さんの言葉に励まされ、癒され、時には涙したファンは、坂井さんの言葉の力によって変えられた経験を持つわけだから、このことはほとんど自明なのだが、言葉を発する側の坂井さん自身はそれをどう感じているのかな、と常々私は思っていたからだ。

坂井さんの詞では、「言葉」ではうまく伝わらないもどかしさや、むしろ嘘になるといった言葉の裏切りを表現するものが多い。「言葉」に対しては懐疑や不信感、あるいは絶望感すら持っているのではないかと思われるほどなのである。

言葉で伝えられるものは限度があるし、「誤解や錯覚」はつきものである。しかし、それでもなお、言葉によって「世界」という共通の理解の地平が開かれていることの不思議さ。言葉に裏切られても、やはり言葉の力を自分は信じると。そう言い切った坂井さんに、思わず私は強く拍手せずには居られなかったのである。