ライブDVD、新たなZARDの魅力

実際にライブを見たとき、私は坂井泉水というアーティストの持っている最良の資質あるいは力が、これまでのCDではせいぜい70〜80%程度しか伝えられてきていなかったのではないかと思った。ある意味で私の中で「ZARD観」が変わったのだ。


坂井さんの生の声はCDから想像するより遥かに迫力があった。ライブを見たファンで、その声量と表現力の豊かさに驚き、圧倒されなかった人は居ないだろう。時に優しくつぶやくように、時に明るく快活に、そしてバラードでは思い切り感情を乗せて、その自在な翼を獲得したボーカルは聴く者に深い感動を与えたのである。*1

織田哲郎さんやB'zの松本孝弘さんと稲葉浩志さんも、ライブの坂井さんの歌を高く評価していたっけ。http://d.hatena.ne.jp/moon2/20050320


ZARDはCDの売上等で数多くの輝かしい記録を持っているが、それはZARDの一部の力の結果を示しているに過ぎず、ZARDというアーティストの真価はライブでこそ発揮されるのではないかと私は思うようになっている。


デビュー以来最大のイベントの記録であるこのDVD「What a beautiful moment」が、ZARDのヒストリーを飾る記念碑的大作であることは間違いないが、この作品は単に過去の集大成ではなく、ライブという表現形式を得たZARDの新たなステップの始まりでもあるのだ。*2


今度DVDを見て、生で見たときの印象を変える必要はないなと思った。ライブを見ていない人にも、恐らく前述したようなことはかなり伝わるだろうし、ライブを経験した者にはその感動を再び味合わせてくれる。


出だしの「♪揺れ〜るぅ 想〜い」での全身ビリビリの強烈な電気ショック、「pray」や「You and me (and...)」での魂が揺さぶられた経験が、DVDで蘇ってくる。また、「Today is another day」では、あの時と同様に楽しくて、否応なしに身体が動き出してしまう。


生のときには気付かなかったものもDVDにはある。公演に行ったとしても、坂井さんの笑顔や自然なしぐさなど、広い会場ではなかなかわからない。トチッてペロッと舌を出したり、「来年の夏も」の出だしをミスって、ファルセットのような声で「しっぱ〜い。うふふッ。」なんて言うところなど、実にエレガントで可愛いんだなぁ・・・。


また、特典のDVDの方には、坂井さんのサービス精神が溢れていて、各会場でのそういったシーンがまとめられ、とても楽しい。坂井さんのいたずら心なのかな(笑)。坂井さんがグッと身近に感じられてくる。


迫力と可愛さと。そういった新たな魅力の発見がここにはある。DVDは、あの夢のような時間と、坂井さんの新たな魅力がギュッと詰まった宝物なのだ。


また、サポート・メンバーの表情を見ることができるのもDVDならではだろう。「Today is another day」では、サポメンたちがこの曲の演奏を心から楽しんでいる様子が見て取れる。みんな実に良い顔してるんだよねえ。私はこのミディアム・テンポの骨太のロックが大好きなんだが、皆もこの曲が好きなんだなあ。しかも、「Today is another day」は2回分が収録されていて、2人の違うサックス・プレイヤーが異なるアレンジで聴かせてくれるというのも嬉しい趣向だ。


とは言え、実際のライブでのスリリングな緊張感、幸福な解放感、エネルギーの充満した一体感を坂井さんや他のファンと共有した経験、坂井さんの発するエネルギーで魂が震えたあの体験は、あの時あの場所に「参加」することによってしか得ることはできないものであった。DVDでもある程度追体験することは可能だけれども、DVDを見ていると、またあの真剣勝負に参加したくなってきてしまうね(笑)。

*1:ライブで生声を聴くと、CDでは感情を籠めすぎることなく、あえて抑制的にクールに歌っているんだということが良くわかる。それが坂井さんの都会性を感じさせる基本的なボーカル・スタイルなのだ。たぶん、繰り返し聴かれることが前提になるCDでは「濃い味付け」は避けているのだが、一回性のライブではそのスタイルを破ったのだろう。

*2:確か坂井さんはWEZARD最新号で、ライブは通過点だという意味のことを言われていたと思う。