世界が輝くとき

坂井泉水作詞、織田哲郎作曲の名曲「あなたと共に生きてゆく」(歌:テレサ・テン)の中に「いつもと同じ街並み 今日は輝いて見える」というフレーズがある。

今日ゴッホ展に行って、このフレーズを思い出した。


大阪中之島国立国際美術館、去年の11月に開館したことすら知らなかったけど、文化不毛の地と言ったら言い過ぎだが、(少なくとも美術館に関しては)文化過疎地、あるいは文化貧困の地と言うべきここ大阪にも、ようやく本格的な美術館ができたのは良いことだ(とは言っても、常設コレクションはまだまだプアだが)。
http://plaza.harmonix.ne.jp/~artnavi/12publicty/170718-kokusai-gogh/00kokusai-gogh.html


淀屋橋から去年ZARDのライブのあったフェスティバル・ホールの前を通り、川沿いに少し行ったところにある。10時開館の前に行ったのでスッと入れたが、昼前に出て来たときは入場制限でかなり長い列ができていた。平日の午前中ですらこうなのだから、休日だったら大変だ。行くなら朝イチに限るね(笑)。


今回の展示は、ゴッホの受けた精神的・文化的影響の足跡を辿れるように工夫されている。牧師だった父親の影響で牧師になろうと志したが、その説教が人々のウケが悪くて挫折。たぶん、思い入れが激し過ぎたのだろうね。


初期は、産業革命で疲弊した農民や過酷な労働を強いられた織工たちを描いた絵が多い。キリスト教の精神と、ミレーの影響が強く感じられる暗い画風だ。

印象派の画家たちとの出会いは明るい画風に一変させる。ピサロセザンヌゴーギャンシスレー等々。ちょっと意外だったのはモネ。ゴッホはモネの風景画のように明るい肖像画を描きたいと言っていたそうだ。


面白かったのは浮世絵の影響だ。確かに、新たな表現(世界の見方、世界観)を模索していた印象派の画家たちにとって、浮世絵の平面的で、単純な色彩の、輪郭をクッキリ描いた絵は(浮世絵は版画だからそうなるわけだけれども)極めて衝撃的だったと思う。西洋画は初めてこういう絵に出会ったのだから。ジャポニスム(日本趣味)がブームになったのはうなずけるところだ。


こういう様々な影響があってゴッホは画風を確立していくのだが、やはり素晴らしいのは最晩年の(といっても37歳で自殺するまでの短い生涯だったが)、光輝くような絵だろう。

黄金色の麦畑、燃え上がる糸杉、渦巻く夜空*1。私はゴッホが技巧や想像でこれを描いたのではないと思う。ゴッホには世界がこのように見えていたのだ。ゴッホは見えるとおりに世界を描いたに過ぎない。


私が若い頃、病気で死にかけたときがあったが、死を覚悟したとき、木々の葉、道端の石ころ、ふだんは存在すら気付かないものがみな輝いて見えた。ゴッホはそれを描いたんだろうと思うのだ。


「いつもと同じ街並み 今日は輝いて見える」。世界が輝くときというのは確かにある。


なお、ゴッホ展は東京展は既に終了、大阪は7月18日まで、次は愛知県美術館で7月26日(火)〜9月25日(日)だ。
http://www.nhk.or.jp/nagoya/event/vangogh/
あれ、名古屋の方が料金が安いゾ(笑)。

*1:そういえば、doaの曲にあったっけ