代々木ライブ その9

ライブ後、アリーナ席から出口に向かうと、車椅子の人たちが一斉に退場するところだった。他のコンサートのことはわからないが、ZARDのコンサートで車椅子の専用席が設けられるのは珍しいことではない。あらためて坂井さんの歌が与える勇気の大きさを思う。


私は車椅子の通行を妨げないように、上階の出口から出ることにした。すると、思いがけないことに、贈られた花束が展示してあり、もっと驚いたことには坂井泉水さんの描かれた絵も展示してあったのだ。場所は献花台から見て右手奥のエントランスホールなのだが、とくにアナウンスは無かったから、絵を見ることができたのは本当に偶然でラッキーだった。


FRIDAY 6/19号にも掲載されているように絵は5枚で、どの絵にもSachiko.Kとサインされている。ネットではhttp://mainichi.jp/enta/geinou/graph/200805/28/で見ることができる。


5枚のうち静物画は3枚で、そのうち2枚は机の上の果物やビン、ポットが描かれている。主題や構図にはセザンヌの影響が見て取れると思う。ただ色調はセザンヌより濃く鮮やかで、独自性が感じられる。

残りの1枚の静物画は花と花瓶が描かれている。ルドンかなあと思ったが、やや粗いタッチは梅原龍三郎っぽいと言えばぽいかな(笑)。背景色のくすんだブルーはちょっとエル・グレコ風?だ。この絵を含めて3枚に使われているところを見ると、きっと坂井さんのお気に入りの色なのだろう。

残りの2枚は人物画で、1枚は髪の長い若い女性が少し憂い顔で赤い帽子をかぶっている。腰掛けて左手で軽く頬杖をつき、右手は左脚の膝上に置かれている。右腕と左腕の線が画面に動きを与えているが、全体の落ち着きの中に収束している。
この絵で一番印象的なのは女性の眼が塗りつぶされていることだろう。だから最初見たとき、あ、モディリアーニだと思った。モディリアーニにはちゃんと眼が描かれている作品も多いのだが、典型的にはアーモンドのような眼と長い首の女性の肖像画だから。一説によれば、眼を描かないのはモデルの内面に迫るためだという。
でも今は坂井さんの少女像はローランサンっぽいなと思う。ローランサンの描く少女も眼ははっきり描かれていない。坂井さんの少女像はローランサンのように淡い色調ではないが、赤い帽子や長い髪はローランサンのイメージだと思う。
ローランサンの少女の眼がはっきり描かれていないのは、内面に迫るためというより、その瞳に映った夢を描くためだと私は思うが、坂井さんのやや憂いを秘めた少女像も夢を見ているのかもしれない。


なお、「君に逢いたくなったら」のPVに出てくるモディリアーニの絵は、その絵画スタイルを確立する前に原始美術の強い影響受けて制作されたカリアティッドと呼ばれる一群の様式の絵のひとつなのだが、http://nikkei.hi-ho.ne.jp/modigliani2008/vol4.html 実は私はモディリアーニにこういう絵があることをPVで初めて教えられたのだ。坂井さんがこれをご存じだったということは相当絵にお詳しいのだろう。


最後の1枚の人物画は、もっと成熟した女性像で、少女像とは違って眼も一応描かれている。ステージ衣装なのだろうか、黒っぽいロングドレスにネックレスやイヤリングを付け、ランプの光に背を向けて腰をかけ、顔ははす前に向けられている。何とも意味深な構図だが、坂井さんは何を描こうとされたのだろうか。

私はこの絵に近い構図の絵をどこかで見たような気がして、いろいろ調べてみたのだが、見つからなかった。まー、それはともかく、モデルが左手を頬に当ているポーズには、少女像と共通のものがある。そういえば、献花台に飾られた坂井さんの写真もこれに近いポーズだ。その写真は確かアーティストファイルの表紙にも使われていたから、坂井さんお気に入りのものだったに違いない。坂井さんはこのポーズが気に入っていて、絵のモデルさんにもこのポーズを取ってもらったのではないかと思った。


FRIDAYによると、坂井さんが本格的に習い始めたのは2003年からだという。意外と最近なんだな。短期間でここまで描けるものなのか。
私のように(見るのは好きだが)絵心がない者にはどんなに逆立ちしたって描けないな(笑)。