横須賀美術館にて

クレー展を見るためシルバーウィークに横須賀美術館へ行った。横須賀は三浦半島の東岸にあり、一山越えればZARDゆかりの場所の多い西岸の葉山に出る。だから帰りは夕日を見ながら葉山経由でと考えていた。


横須賀の市街地を抜けると南国のような椰子の街路樹の海沿いの快適な道になり、やがて三浦半島の東端、観音崎灯台の麓にある目的地に着く。そこに大きなガラス箱のような美術館があった。海に向かってなだらかに傾斜している前庭の広い芝生からすぐ先に見える東京湾には貨物船やヨットが行き交い、その向こうには意外に近く房総半島の山の連なりが見える。
美術館の美しい建物自体も環境の中に取り込まれ、建物と環境が合わさって建築全体を構成していることが素晴らしい。海と船そして山を借景に、海を眺めながらゆったりと流れる時間を味わうことができるように設計された芝生。これほど気分の良い場所というのはザラにはないかも知れない。


2007年オープンだからあり得ないことだが、美術館巡りがお好きだった坂井泉水さんがお元気だったらきっとお気に入りの場所になっただろうな。


クレー展はクレーが日本や中国から受けた影響を探ろうとする内容で、これまでほとんど注目されてこなかった部分のようだ。しかし、クレーの蔵書にある北斎等の絵とクレーの線描画を較べると、北斎等からの影響は明白だ。私はクレーの思索的で神秘的な色彩が好きなので、今回は線描画が多くて少し残念な気はしたが、彼がその独自のスタイルを確立する前には線の画家だったことを知ったのは収穫だった。


常設の展示は明治以降の日本人画家の絵のコレクションだ。しかし、入ってみるとすぐのところにブラマンクの絵があるではないか。変だな、と思って近寄るとある日本人画家の絵だったのだ。
http://www.yokosuka-moa.jp/collection/img/saka010001.jpg横須賀美術館収蔵品のページより)


それだけではなく、他に記憶しているだけでもキリコ、セザンヌムンクマチス、ルオーの影響が一見してわかる絵があったのには驚いた。それと共に私はスタイルというものを考えさせられた。他人のスタイルの真似では独創性はない。そんなことは当然承知の上で、スタートはやはり模倣なのだな、と思った。それはおそらく自らのスタイルを確立するための苦闘の跡なのだろう。模倣を脱し、独自のスタイルを確立しなければならないのはアーティストの宿命である。


しかし、独自とはいっても奇抜なだけではダメで、普遍性が無ければ、つまり多くの人の感性に受容されなければ単なる独りよがりに過ぎない。本当に難しいのは、独自性と普遍性という相反する要求を両立させなければならないことだろう。そして「独自な普遍性」を持ちえた画家だけが大家(ビッグネーム)と呼ばれるようになる。これは絵画だろうが音楽だろうが変わらない。坂井泉水さんが模索された「ZARDらしさ」というのは、これを指すのだと思う。


美術館に併設された谷内六郎館で週間新潮の表紙を飾った絵(これも良かった)を見て、観音崎の海岸線の道を「たたら浜」まで歩いた。何でも初代ゴジラはここから上陸したそうで、その足跡!があった。そこから山越えして美術館に戻り、急いで車で葉山方面に向かったのだが、無情にも途中で日はとっぷり暮れてしまい、夕日どころか
♪月を追いかけ Driving (I want you)
う〜ん、本当に秋は日が落ちるのが早いなあ・・・。長者ヶ崎の夕日は必ず再チャレンジするぞー。