夜と霧

ある戦争関連の特別番組を見ていて、ふと坂井泉水さんが読んでおられた1冊の本のことを思い出した。


フランクルの「夜と霧」(WEZARD vo.2)。坂井さんがこの本を読まれていると知って、当時非常に驚いた記憶がある。こういう「重い」本を読まれるとは・・・、決して薄っぺらなアーティストではない。私にとってはZARD観を一変させる衝撃的出来事であった。


「夜と霧」の舞台はユダヤ人殲滅の目的でナチスが作った強制収容所のひとつ、アウシュビッツ。集められたユダヤ人は過酷な労働を強いられ、働けなくなると容赦なくガス室に送られた(それも含む様々な手段でナチスに殺されたユダヤ人は600万人と言うから驚く。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88#.E3.83.8A.E3.83.81.E3.82.B9.E6.94.BF.E6.A8.A9.E8.AA.95.E7.94.9F.E4.BB.A5.E5.89.8D.E3.81.AE.E3.83.A6.E3.83.80.E3.83.A4.E4.BA.BA.E7.A7.BB.E9.80.81.E8.A8.88.E7.94.BB


「夜と霧」はアウシュビッツに収容されたユダヤ人心理学者であるフランクルが、奇跡的に生還するまでの体験を学者らしい冷静な筆致で描いた不朽の名著である。人間の恐るべき残虐さ、おぞましさとともに生への希望も描かれていて、若い頃、私は電車で読んでいて感動し、こみ上げる涙をどうすることもできず、駅を乗り過ごしてしまったほどだ。

夜と霧 新版

夜と霧 新版


ただ、大ベストラーとは言え、坂井さんの世代では読む人は多いとは言えないだろう。読書家坂井さんは選んで本を読まれていたことが良くわかる。
この約半年後、ファンクラブ・イベントでスタッフが坂井さんオススメの本としてリルケニーチェ(スタッフの方は「ニーケ」と発音されていたが)を挙げておられたが(WEZARD vo.5)、なるほどと思えたのである(フランクルリルケニーチェと並べれば、坂井さんの実存主義への親近性を指摘できると思われる。また、坂井さんの詞に見てとれる「今」の重視も実存主義的な思考形態と言えるのではないだろうか。)。


坂井さんの詞のある種の難解さの背後には精神のこうした「深さ」があるのだと思うし、その世界観の探究はZARD理解に欠かせないのではないかと私は思っている。