「ハートに火をつけて」WEZARDコメント

坂井泉水さんご存命中最後のリリース曲となった「ハートに火をつけて」について、坂井さんのインタビュー・コメントがWEZARD vol.32(2006年5月)に掲載されている。実は内容はほとんど記憶に無かったのだが(汗)、最近読みなおしたところ、重要な内容があると思うので、それを中心に書いておきたい。


まず歌詞自体だが、
♪留まることのない時間 だからこそいとしい
というフレーズが最初にでてくる。
「『星のかがやきよ』の無常」 (http://d.hatena.ne.jp/moon2/20100925 および http://d.hatena.ne.jp/moon2/20100930)を書いた時はこのフレーズは意識になかったのだが、坂井さんの「積極的無常感」が表れている一例を見つけた思いがした。


全体のストーリー展開について、坂井さんは「紆余曲折があって最後はハッピーエンド」と言っておられる(WHAT's IN? 2006.5)。その「紆余曲折」を象徴するものが冒頭の雨音だろうと私は思う(これについては前に書いた。 http://d.hatena.ne.jp/moon2/20060509


さて、WEZARDのコメントだが、
この曲のテーマについて、坂井さんは、
「テーマは一つではないのですが、"今が最高"と思えるように後悔しない日々を送りたいですね、という事がテーマでしょうか。」と答えられている。


更に、この詞で最も愛を込めたのはどのフレーズですか?という質問に対して、坂井さんは「最初は『今が最高って思いたい』でしたが、熱考の末、『いつも今が最高って思いたい』に変更しましたので、そこに私の強い思いがあるのだと思います。」と答えておられる。


私は驚いた。「今が最高って思いたい」と「いつも今が最高って思いたい」には「いつも」があるか無いかの違いだけではないか。それにどれほどの違いがあるのだろう?しかし、坂井さんは「熱考の末」この「いつも」を加えたと言われており、しかもそれは、「強い思い」があったからだと言われるのだ。つまり、この変更は曲に詞が嵌るようにとかの理由によるものではなく、何か重要な意味を持っているに違いない。


驚いてばかりおれないので、違いを考えてみた。
私の考えでは、坂井さんは「今が最高って思いたい」では、「その時点の」気持ちを表していると理解される可能性があると思われたのではないだろうか。しかし、「いつも今が最高って思いたい」とすれば、「常に」その気持ちでいたいということになる。個別的な状況の表現を超えて、普遍性を持たせることを目指されたと言うこともできるかも知れない。「いつも」一語にこめた坂井さんの詞へのこだわりというか、推敲は凄いと思ってしまう。


もうひとつ、このWEZARDのインタビュー・コメントで書いておきたい記載がある。
「二人で歩き出す人生を「新しい宇宙」と表現された中にはどのような想いが込められているのですか?」という質問に対して、坂井さんは
「夢中な程視野が狭くなりがちですが、日本の、世界の、宇宙の、と、その中の自分であり、二人ですから小さくも無限大。数式で言う1+1=2ではなく、1+1=10になる可能性も有りうるという…。」と答えられている。


宇宙の中の、小さくも無限大の自分たち。まるで「パスカルの葦」のようなイメージだなと私は思った。「愛を信じていたい」以後、ZARDの楽曲にはしばしば宇宙やそのイメージが登場するが、このコメントも坂井さんの「宇宙」のイメージ(宇宙観)を理解するため重要な鍵になるような気がする。


なお、私は坂井さんが作詞され、インタビューが行われたのは、病気(癌)発覚前であったと考えている。だからこの曲の歌詞やコメントの内容を病気(癌)と関連させて解釈することは慎みたいと思っていることを付言しておきたい。