言葉の力

万葉の古歌のように時代も背景も違う歌がわれわれの心に響いてくるのはなぜか。

それは「日常生活の非常にささやかな喜び、悲しみ、怒り、絶望といったものを文字にした」、つまり「日常生活の退屈な繰り返しを見つめ、そこから反転して自分の心に見入りつつ歌われたささやかな表現」だったからだ、と詩人の大岡信は言う。「大げさな言葉はわれわれをあまり感動させず、つつましく発せられたささやかな言葉が、しばしば人を深く揺り動かす」のだ、と。

これを読んで私はZARDの「Seven rainbow」の「ささいな出来事いっぱい作ろう」という歌詞を連想してしまった。「ささいな出来事いっぱい作ろう」というのはいささか奇妙な感じのするフレーズだと思っていたが、「ささやかな」なら意味的にはピッタリくる。ただそれだと曲に乗せられないから坂井泉水さんは「ささいな」としたのかな、と。もちろん、これは私の勝手な憶測に過ぎないが。

詩・ことば・人間 (講談社学術文庫 (672))

詩・ことば・人間 (講談社学術文庫 (672))

大岡信の「言葉の力」というエッセイは「詩・ことば・人間」という文庫本に収められた30ページ弱の短い文章だが、この詩人の詩の言葉に関する思考のエッセンスが詰まっていて面白く、また共感させられるところが多かった。それについて書いておこう。
(つづく)