ジョン・レノン,ニューヨーク(2)

さて、映画に戻りましょう。
反体制のシンボルに祭り上げられたジョンの影響力を恐れたニクソン政権は、ジョンに対して国外退去命令を出し、FBIはジョンの行動の監視を始めます。ジョンは命令を拒否、4年間の法廷闘争の末、勝訴を勝ち取りますが、裁判や国外退去命令のストレスは相当強かったようです。


その間、ジョンは北爆を強める保守派のニクソン再選を阻止しようと活動しますが、ニクソンは再選されてしまいます。これにひどく落胆し、アルコールも手伝ってコントロールを失ったジョンは、ヨーコや仲間と居るまさにその時に別の部屋で「不倫」してしまいます。ヨーコから「出て行け」と言われたジョンは土下座して謝りますが、ヨーコは赦さず、別居が始まります(別居の原因がここまで赤裸々に明かされるのは初めてかもしれません。)。


私はニクソン再選阻止に挫折したからといって、ここまで自暴自棄になるものだろうか?と驚きました(映画では描かれていませんが、何か他の原因もあったのかも知れません。)。ジョンはとことん突き進む真っ直ぐな人なのだと思いますが、悪く言えば小児的です。普段は少年のようなナイーブな心を持った人だと感じるのですが、コントロールを失って悪い面が出てしまったのでしょうか。


ヨーコへの裏切りを深く後悔したジョンは、別れた後もヨーコに頻繁に電話してよりを戻そうとしますがうまくいかず、ニューヨークを去ってロサンゼルスで『失われた週末』と呼ばれる酒浸りの荒れた日々を過ごすことになります。
私は見ていてジョンにとってヨーコがいかに大切な存在だったかを痛切に感じました。ヨーコにとっても、ジョンを愛するがゆえの拒否だったように思います。この辺りは見ていて切なかったですね。


ジョンがロサンゼルスに移った直後にリリースされたのがアルバム「Mind Games」です。タイトル曲「Mind Games」はZARDにも影響を与えているので少し触れておきます。坂井泉水さんはビートルズジョン・レノンから多くの影響を受けていますが、「Mind Games」もそのひとつです。それはタイトルの他、次のフレーズからも明らかでしょう。


Projecting our images in space and time (John Lennon)
時間と空間の中 未来のイメージ ずっと焼きつけて (ZARD)


シングルの「Mind Games」は『失われた週末』が始まってすぐに録音されました。歌詞の内容はかなり難解ですが、ジョン流の反戦歌で(曲の最後で"I want you to make love, not war"と歌われています。)、「Imagine」で語られた「夢」が挫折を経験して、新たな方法(mind games)から希望(love & peace)へと向かう内容だと私は思っています。
http://www.youtube.com/watch?v=8dHUfy_YBps

『失われた週末』が始まって1年余、エルトン・ジョンのコンサートに飛び入り出演したジョンは、そこに来ていヨーコと再会し和解します。そしてまたニューヨークで二人の生活が始まります(1975年1月)。
この年の4月にはサイゴンが陥落し、ベトナム戦争終結、そして10月に裁判で米国在住が認められ、その直後に息子ショーンが生まれました。ジョンの喜ぶ光景(有様)は印象的です。1975年はジョンにとって最も幸せな年だったかもしれません。


映画は子育てに勤(いそ)しむ「主夫」ジョンの姿を写します。それはとても微笑ましく、反体制のシンボル、あるいは『失われた週末』のジョンはもう居ません。それは穏やかで幸福な、傍目にはまさにlove & peaceの生活だったように映ります。


「主夫」業の期間中は音楽活動を休止していましたが、作品は書き留めていたようで、やがてショーンが生長してくると音楽活動に復帰しました。そして「再出発」という意味の「スターティング・オーバー」がリリースされ、アルバム「Double Fantasy」が生まれ、更なる創作へと向かおうとしていた時に、一発の銃声が響きます・・・。


参考
http://www.asahi.com/showbiz/movie/TKY201108200140.html


(おわり)