「ハートに火をつけて」(2)

(1)「ハートに火をつけて」と(3)「グロリアス・マインド」とで録音時の坂井泉水さんのご様子を比べると、あまりの激変ぶりに驚かないではいられない。この二つの曲の録音の間に何が起たのか。それは(2)「ハートに火をつけて」のPV撮影の夜、坂井さんの体調が急変し、その後の検査で癌が見つかったという事態しか考えにくいのである。


そして(1)「ハートに火をつけて」の歌入れが(2)で倒れられた後に行われることはありえないだろうから、(1)→(2)→(3)の順になると考えられる。


つまり、(1)「ハートに火をつけて」の作詞完成(歌入れ)は(2)PV撮影より前になるから、坂井さんご自身は癌だと気付いておられなかったわけで、それが詞の内容や詞に関する坂井さんのコメントに影響を与えることはありえないことなのだ。


ただし、後でわかったことだが、坂井さんは以前から様々な女性疾患を患っておられたし、ご自身は気付いておられなかったというものの癌であったわけだから、その影響による体調不良はあったと思う。それが坂井さんの詞やコメントに影響する可能性はまったく無いとはいえないだろう。
しかし、普段から人前で「弱み」を見せることを潔しとせず、皆に心配を掛けまいと癌を一部の限られた関係者にしか明かされなかった坂井さんが、そして、入院された後でも気持ちが折れることがなかった坂井さんが、ご自身の体調不良を示唆するような詞やコメントをあえて公けにするだろうか(もちろん「Vintage」のような詞はあるが、歌われているのはあくまで精神的な苦悩であって身体的なものではない)。それは坂井さんの美学、生きざまに反することだと思うのである。


だから、坂井さんの「ハートに火をつけて」のコメントにある「哀願」という言葉を、癌と結びつけることは誤りだし、あくまで私見だが、体調不良に結びつけて解釈することも妥当とは思えないのだ。


ところで、「ハートに火をつけて」PV撮影と「グロリアス・マインド」録音は同じ月(2006年4月)に行われた。「グロリアス・マインド」録音時に検査結果がわかっていたかはわからないが、倒れられた後の極めて体調が悪い中、懸命に歌を歌われたのである。


おそらく既に英語の「仮歌」があり、作詞ができた部分を歌われたのだろうと思うが、それで「完成」するというわけではない。にも拘わらず、坂井さんはなぜ極度の体調不良をおしてまで録音されたのだろうか・・・?
「その歌っている時の鬼気迫るっていうか、歌っておかなければいけないってギリギリの感じは、鳥肌がたちましたね…。」という島田さんの受けられた印象からは、曲が完成するかどうかは二の次で、今伝えておかなければという強い思いが坂井さんを駆り立てていたような気がするのである。


(おわり)