「Last Good-bye」の男性像

「Last Good-bye」は元々は FIELD OF VIEWへの提供曲で、坂井泉水さんがアルバム「君とのDistance」でセルフカバーされた歌だ。終わりゆく二人の愛が男性目線で描かれている。

Last Good-bye

Last Good-bye

君とのDistance

君とのDistance

この歌の意味をじっくり考えたことはなかったのだが、あらためて考えてみると、主人公の男性像の思いがけない顔が見えてきたのだ。それがあまりにも意外なので、「そんなバカな!」と思われる人が多いと思う。私もここに書くのをためらうが、「ひとつの解釈」としてお許し願うことにして、思いきって(笑)書いてみたい。


まず初めに、先入観を抜きにして「Last Good-bye」の歌詞を読んでいただきたい。
うたまっぷ http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=B11043
蛇足だが、幾つかある歌詞のサイトでは「うたまっぷ」がオススメ。Yやgは坂井さん独特のルビを無視してしまっているから。
この歌では、「うたまっぷ」では
一人の人間(ひと)をずっと好きでいるのは難しいよ
今も僕は少年(あおい)夢にしがみついてる
となっているが、Yやgは括弧内は全く書いてない。これでは坂井さんの歌詞を把握できない。


さて、タイトル「Last Good-bye」だが、直訳すれば「最後のさようなら」。つまり、これでお別れといった意味だろう。


しかし、次に続く「君を悲しませてるものは すべて消えるよ」というフレーズに途惑った。なぜ、「別れ」で君の悲しみの原因が消えるというのだろう?むしろ、別れは悲しみの原因ではないのか?「君を悲しませてるもの」って何だろう?
私が歌詞の意味を考え始めたのは、ここで引っ掛かってしまったからだ。


この歌の軸になるのは主人公と君の関係である。
「誰にも言えない悩みを お互い話したね」という関係だったのに、「君は少しづつ無口になって」いき、今では「ひとりだけの時間を 忙しく生きてる」状態になってしまった。
なぜそうなってしまったのだろう?


次に挿入された、やや唐突感を与えるフレーズがとても重要だと私は思う。
「ひとつ大人になると ひとつ嘘が増えていく」


シンプルだが強烈なインパクトを持つこのフレーズを、坂井さんがたいした意味もなく入れたとは考えにくい。しかも、「嘘」と歌われる時の坂井さんの強い口調を考えるとなおさらだ。


だから、私は愛の破綻の原因はこの男性の「嘘」にあったのではないかと考える。男の嘘や裏切りが女性の不信感を生み、やがて愛情も冷めていくのだ。


こうした見方に立って主人公の男性像に焦点を当ててみよう。
自分の嘘が彼女の不信を生んだのに、主人公は、
「友達だったなら うまくいく関係(あいだ)だったのか」
「一人の人間(ひと)をずっと好きでいるのは難しいよ」
「今も僕は少年(あおい) 夢にしがみついてる」
などと考える。


「友達だったなら・・・」なんて、いかにも白々しいが、私はとくにこの男の「一人の人間をずっと好きでいるのは難しいよ」が気に入らない。自分の嘘を棚に上げ、他人事のような口ぶりではないか。にも拘わらず「今も僕は少年 夢にしがみついてる」ような煮え切らない男なのだ。


そして末尾のセリフ、「ねぇ 誰も間違っていないよ」に至っては、「ふざけるな!お前が間違ったんじゃないか!」と、相手の女性ならずとも叫びたくなってしまう(笑)。ここまで来ると、優柔不断を通り越して、不誠実である。


冒頭の「君を悲しませてるものは すべて消えるよ」というフレーズは、相手の女性を思いやった言葉のように見えるが、実はそうではなく、「君を悲しませてるもの」とは、他ならぬ主人公自身なのだ。それが「Last Good-bye」、彼女の視界から消えて「もう君の前には現れないよ。」ということである。まあ、それがせめてもの誠実さの表れと言えなくもないが・・・。


責任を回避したり、他人に責任転嫁しようとする人間はどこにでも居る。いかに倫理的に許せなくてもそれが現実であり、人間の弱さである。坂井さんは愛という局面でそれを描こうとされたのかも知れない。


資料を見ていると、91年10月か11月の「BEAT ZONE」(B'z 松本孝弘さんの番組)に出演された坂井さんが次のように仰っているという記録があった。

・・・どうも私が書くと不倫の歌とか、ドロドロの、一筋縄じゃいかないみたいな、男の人のずるさ書いたりとか、一部にありますよね。「どうしてこうなのにこうしてくれないの」といったような、そういうところが面白いから、そういうとこを書きたいなーって。


男のずるさか・・・。なるほど。坂井さんの描く男性像の中には「ずるい男」のシリーズがあるかも知れないな。優しさゆえに結果的に裏切ってしまう男。「Last Good-bye」の主人公もそうなのかもしれない(ついでながら「雨に濡れて」の男性も)。


「Last Good-bye」の「男のずるさ」に私が気付くのは大変だった。そこには「男のずるさ」を示唆する言葉が一切ないからだ。
書かずに表す。これは最高難度の表現手段である。今更ながら、坂井さんの作詞家としての力量に感服するばかり。本当に凄いと思う。